ミュージックビデオの演出からテレビの役目が変わったことを感じる

テレビのセイフティマージン

下の映像は、youtubeで公開されているミュージックビデオを引用したものです。
youtubeで何か見たことがある人は気づくと思うのですが、ちょっと変わったところがありませんか?

こちらが、普通の映像。

そう、先に紹介したミュージックビデオには枠のようなものが付いています。
初めて、これを見た時は、「youtubeの表示のデザインが変わったんだ」と勘違いしてしまいました。
しかし、再生を初めて間もないところで、この枠の上に映像が重なる瞬間があり、そういう演出なんだと気づきました。(18秒あたり)

それに気づくと、この枠は、ものすごくシンプルな演出なのだと解ります。
映像編集をする時に、実際のミュージックビデオの部分をひとまわり小さくして、その周りに白い部分、その外にグレーの枠をつけるのです。
映像の周りの白い部分も、この枠も映像の一部なのですが、youtubeの背景が白いので、映像から少し離れたところに枠が付いているように見えるのです。
このブログも背景が白なので、同様に見えています。

ミュージックビデオの始まりは、あやふやなところもあるのですが、ビートルズだという説が一般的に広まっています。
新曲を発表する度に、あちこちのテレビ局にでることになるのが億劫で、予め曲と映像が入ったビデオテープを各局に送っていたということらしいのです。

しかし、おもしろいことに、ビートルズがテレビに出るのが嫌で作ったミュージックビデオは、逆に、テレビ出るために活用されることになります。
そう、ミュージシャンたちは、ミュージックビデオをせっせと作って、テレビ局に送り、テレビ局は、それが面白ければ放送し、そこから曲が有名になっていくという流れに変わるのです。

ビートルズとその他のミュージシャン、まったく反対の理由で作ったミュージックビデオですが、それが、テレビを中心としているところは一緒です。

そして、現代。

今回紹介したミュージックビデオは、youtubeで再生されることを前提として制作されていることが解ります。
まず、グレーの枠の演出もそうですが、その枠が映像の外側ギリギリにあることに注目してください。
実は、テレビで見ている映像は、実際の映像より少し狭い範囲しか見えていません。一番外側から10%ぐらいは映っていないのです。
下の画像が、テレビで放送する映像を編集する際に目安にする、実際に映る範囲とテロップを入れても大丈夫な範囲を示したものです。

テレビのセイフティマージン
テレビで放送するときに映る範囲

テロップを入れる位置が、かなり内側にあるのが解ります。テレビがブラウン管から液晶になって、見えない範囲は随分と狭くなったのですが、それでも映像の外側に近い位置にテロップを置くと文字が切れてしまうことがあります。

しかし、youtubeなどで映像を見る場合は、その映像の100%の範囲を見ることができます。
なので、一番外側に枠があっても問題ありません。そういうところからこのミュージックビデオは、youtubeで見ることが前提で作られているのが解るのです。

テレビで放送されることを目標に作られていたミュージックビデオですが、それは、「多くの人が見るのでプロモーションにつながる」という理由からでした。

しかし、今回紹介したミュージックビデオは、youtubeで目立ったほうがプロモーションになると考えて作られています。
つまり、テレビよりもyoutubeの再生回数が上がる方が重要と考える音楽プロデューサーがいるといういうことになります。
お金をかけずに、世界中の人が目にする可能性があり、話題になれば効果が絶大……確かにお得です。

そして、テレビは「こんな映像が話題になってます」と後から紹介するメディアになっていくのだろうと思います。実際に、youtubeの映像を集めた2時間番組がたくさん作られていますし。

しかし、それはテレビがオワッタということではなく、役目が変わっただけなのです。
情報の最先端からフォロワーになり、しかし、それを情報源とする人たちには、必要なものなのです。