音楽とテクノロジーと独りと

米津玄師さん

テクノロジーが音楽を取り巻く環境を大きく変えたというお話です。
音楽業界は、テクノロジーに強い影響を受けてきました。
その始まりは、エジソンがレコードを発明した頃にまでさかのぼります。

それまで演奏しているところでしか楽しめなかった音楽が、いつでも聞けるようになる画期的なテクノロジーは、レコード販売という新しい商売を生み出します。
そして、その頃のレコードは録音できる時間が短いので、その長さに合わせた音楽が産み出されて、それが主流になっていきました。

その後のCDの発明、ipodの発売などで音楽を販売する業界は大きく様変わりをしてきました。
それでは、そこで売られている音楽を創り出しているアーティストの環境はどうでしょうか?

音楽はもちろん、楽器で演奏するものです。しかし、それをくつがえすものが出てきました。

DTMと呼ばれるテクノロジーです。

DTMはDesk Top Musicの略で、コンピュータで作曲をし、音を組み合わせて音楽を演奏します。
音楽のジャンルとしては、テクノと呼ばれるものや、楽器の変わりにレコードの音楽を切り貼りして別の曲にするサンプリングミュージックというものなど、多岐に渡ります。
かつては、楽譜で音楽を示していたものが、データに変貌をとげたのです。

テクノで有名なのは、坂本龍一氏、細野晴臣氏、高橋幸宏氏のYMOです。

ただし、この三人はもともとミュージシャンで、彼らにとってのDTMは、新しい演奏方法や楽器を手に入れたという感じになります。

DTMの特徴のひとつは、たった独りで音楽を作って演奏することができるというものです。
それまでバンドを組まないと人に音楽を聞かせることはできませんでした。

音楽を作る才能はあるのに、人と接するのが苦手、わずらわしいと感じていた人たちは、こぞって、そのテクノロジーを手にするようになりました。

その中のひとり、DTMの申し子と言えばヒャダイン氏。
ももいろクローバーZやでんぱ組incなど、多くの人に楽曲を提供している彼ですが、世に出るきっかけになったのは、ゲームの効果音を組み合わせて作った曲でした。

実はこの曲、すべてのパートをヒャダイン氏が歌っています。声を加工して、いろんな人が聞こえるようにしているのです。
彼は、ニコニコ動画にこの曲を発表したことで、作曲家として頭角を現しました。

このように、自由に自分の創った音楽を世に出すことができる環境がそろったのも、音楽業界に変化をもたらした大きな要因のひとつと言えます。

そしてDTMは、楽器だけではなく歌までもコンピュータで歌唱するようになります。
歌に特化した音声合成ソフト、ボーカロイド「初音ミク」の登場です。

正直、私は初音ミクの声自体は好きではありません。まだまだ不自然で気持ち悪いと感じます。
しかし、人付き合いができず、埋もれていた才能をいくつも掘り起こしています。

すばらしい曲です。ぜひ、人間の演奏と歌で聞きたいと思わせます。
そして、そう思ったのは私だけではありませんでした。

コンピュータの作った音楽が、人を感動させ動かしたのです。

そして、また新しい才能を掘り起こしました。

米津玄師氏は、作詞作曲、演奏、歌唱、音楽活動のすべてと、ミュージックビデオやCDジャケットなど、創作のすべてを独りで行っています。
彼が独りで産み出す楽曲は、映画のやドラマ、アニメのタイアップ曲になっています。

テクノロジーが人にもたらすもの、それは「独りの開放」なのだ思います。
創作活動の前に人とのつがなりを造らないといけない不自由な世界から独りを開放するのです。
他のことはからっきしダメな人が持つ、たったひとつのすばらしい才能を照らす光……それがテクノロジーなのです。